対人支援のスキルを身につけるときに、欠かせないのは「自己探究」である理由
対人支援スキルを学んだことのある人は経験したことがあることの一つに、「自己探究」がある。
なぜ、対人支援を学びに来ているのに「自分自身」について扱わなければならないのか。自分は「支援する人」なのだから「自己探究」はあとでよい、今は特に何も困っていないから、と思う人も多いだろう。
なぜ、対人支援を学ぶ人は、「自分自身」について学ぶ必要があるのか?
物理の世界に目に見えない領域があるのと同じように、人の意識にも目に見えない領域があります。対人支援の方法も、少しずつ進歩している。
エドガー・シャイン(心理学者:1928-2023)という心理学者はこう言っている。
プロセスコンサルテーションの最も重要な機能の一つは目に見えないものを可視化することである。
エドガー・シャイン 1999
エドガー・シャインが、プロセス・コンサルテーションというアイデアを思いついたきっかけが面白い。
シャインが駆け出しのころ、ある会社の組織コンサルとして仕事したそう。
その会社では、エンジニア同士の会議で、重要な課題について、激しく議論していたのだそうです。その議論の様子は、Aが発言すると、Bが横入りして別の発言をする。誰も最後まで発言できない。話し合いは前に進まず、雰囲気も険悪だったそう。
そこで、新米コンサルのシャインは、最初「人の発言は、最後まで聴かないとダメですよ。でないと貴重なアイデアが台無しになりますよ」とアドバイスしたが、事態はまったく変わらなかった。
困ったシャインは次にこんなことをしてみた。
Aが発言します。それをシャインが白板に書きとめます。Bが横入りします。そのときにシャインが言うのです「ちょっと待って!Aさん、最後まで言ってくれる? 私は、Aさんのアイデアをまだ全部書きとめていないんだ。」そいういうと会議室がシーンとして、みんながAさんの意見を最後まで聞き、シャインが全部書くのを待ってくれた。
この瞬間こそが、シャインがプロセス・コンサルテーションのアイデアを思いついたきっかけだった。
シャインの3つの対人支援モデル
シャインは、対人支援のモデルを3つに分類している。
専門家モデル
このモデルでは、クライアントは、自分では獲得できない専門知識をコンサルタントから買う。
医師・患者モデル
医師・患者モデルでは「コンサルタントはクライアントの問題点を発見し、医師のように処方箋を渡すことを期待されている(シャイン)」さらに「クライアントは、コンサルタントが職業上の基準に基づいて行動し、専門的な診断技術を備えていると思っている(シャイン)」。この医師・患者モデルには前提がある。それは「コンサルタントは正確な診断をすることができる(シャイン)」というもの。
プロセスコンサルテーションモデル
エドガー・シャインが提唱した「プロセスコンサルテーション」モデルは、「専門家モデル」でも「医師・患者モデル」でもない。これは、クライアントの「意識のプロセス」を対象としています。ちょっと複雑なので、ここで、シャインによる定義を引用する。
プロセスコンサルテーションは、クライアントとの関係性の産物である。クライアントが問題としている状況を改善するため、クライアントの内部および外部環境において生じるさまざまな出来事をクライアントが認知し、理解し、そしてそれらの出来事に基づいて適切に行動できるように促す関係性の産物なのである
エドガー・シャイン 1999
これからの対人支援は、どの領域であっても「プロセスコンサルテーション」であった方がよい
このところの私は、エドガー・シャインの「プロセスコンサルテーション」モデルについて、考えることが多い。
ICFの倫理規定では、「コーチは、他の対人支援の手法と明確に区別せよ」と言う。たとえば、コンサルとコーチとセラピーを区別せよ、というものである。
しかし、私はそんな区別より、もっと大切な区別があると考える。それは、エドガー・シャインのいう、3つの支援モデルの区別である。これからの対人支援では、「専門家モデル」でも「医師・患者モデル」でもなく「プロセスコンサルテーション」モデルである方が有効ではないかと考えるのだ。どんな対人支援の方法をとるにせよ、である。
以上は、私の実感である。なぜか私は医療・福祉関係者、臨床心理士の方たちと縁が深い。どの領域の対人支援者でも、私が尊敬する人たちは「プロセスコンサルテーション」モデルを取り入れているように見えている。また、変化の激しい今の時代、インテグラル理論、成人発達理論、哲学等を学ぶ人たちと共に学につけても、「プロセスコンサルテーション」モデルが反映されない対人支援は、効果が薄いことを確認する日々である。
プロセスコンサルテーション的な対人支援を学ぶ人は、「自分自身」について学ぶ必要がある
話をもとにもどそう。結論はこれである。
プロセスコンサルテーション的な対人支援を学ぶ人は、「自分自身」について学ぶ必要がある
エドガー・シャインの体験談を思い出してみよう。彼は、組織コンサルをするとき、相手を変えたのではない(変えようとしたが失敗した)。自分の関わり方を変えたのだ
自分の関わり方を変えるには、ハウツーでは間に合わない。相手を理解し、自分を理解して、自分と相手の関係性を能動的に変えることが求められる。だから、プロセスコンサルテーション的な対人支援を学ぶ人は、「自分自身」について学んで理解することが大事なのだ。
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